13



私の記憶の始まりは病院独特の白い部屋だった。
体のあちこちが痛くて…でもその中で誰かに呼ばれていることに気付いた。
重たい瞼をやっとの思いで開けるとそこには赤い髪の男の人がいた。

「…!!!美桜花!!!」

目覚めた私を見て私の名前を呼ぶ。
でも、私の中には彼はいなくて誰かと尋ねれば表情が固まった。
かと思えば、「俺のこと、覚えて…ないの?」と泣きそうな表情になった。
私がそんな表情にさせてしまったのかと思うとツキンッ、と胸が痛んだ。

でも、記憶のない私にはどうしてそう感じたのかはわからない。
ただ言えるのは、きっと私はこの人と親しかったんだな、ということだけ。


その後はお医者さんや看護師さんが来て質問をしていったけど、私には何も記憶が残ってなかった。

お医者さんが去ってからは、誰かと連絡を取っていた赤髪の彼、一十木さんと話をした。
私が尋ねる度に悲しそうな顔をする彼に申し訳なかった。
でも、彼と話していると安心している自分もいて内心複雑だった。


彼の友達も駆けつけてくれて自己紹介もすれば彼らも悲しそうな表情を浮かべていた。




退院するまで誰かが休みの日や仕事の合間に来てくれて寂しくはなかった。
記憶をなくす前の私との話をしてくれたりとたくさんの思い出を話してくれた。
でも、私にはその記憶がなくて、ただ相槌を打つしかなかった。
みんなが懐かしそうに話すのに私には何処か物語を聞いているようにしか思えなくて。
それが申し訳なかった。


「美桜花!遊園地に行こう!」


あれから退院して私は赤髪の彼…一十木君の家でお世話になっている。
理由を聞いたけど、彼は曖昧に濁して教えてはくれなかった。


周りのことに対して断片的にだけど思い出し始めた私に、ある日彼はそう言った。

記憶がなくても仕事をしなきゃいけなくて…
でも、周りは私が記憶が無いだなんて知らないから過去のことを話す時だってある。
曖昧に微笑んで誤魔化すけれど…それが苦しかった。

周りが私に記憶を思い出させる事に躍起になればなるほど辛かった。
記憶のない【今の私】を否定されているみたいだった。

そんな中、まるで息抜きでもしようと言いたげなその提案に私は懐かしさを覚えた。



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